大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

富山簡易裁判所 昭和48年(ろ)82号 判決

被告人 喜多川安利

昭一〇・九・二三生 自転車修理販売業

主文

被告人を罰金八、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用のうち二分の一を被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、山田登樹雄と共謀のうえ、昭和四七年七月一〇日富山市新桜町七番地三八号富山市役所において、当時被告人が右山田登樹雄に売渡した原動機付自転車について、同市市民税賦課徴収条例に従い、同人名義をもつて軽自動車税納税義務発生の申告をするにあたり、右車両は総排気量〇・〇五リツトルを超える第二種原動機付自転車であり、かつ、道路交通法上は自動二輪車免許等がなければ運転できない車両であるのに、原動機付自転車免許で運転できる第一種原動機付自転車であるように、「総排気量」欄に「五〇c・c」と虚偽の記載をした軽自動車税発生申告書を、標識交付申請書と併用して、同市役所係員に提出してその旨同市長に申告し、もつて、軽自動車税の賦課徴収に関する申告について虚偽の申告をしたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示虚偽申告の所為は地方税法四四八条一項、四四七条、刑法六〇条に該当するから、所定罰金額の範囲内において被告人を罰金八、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、訴訟費用のうち二分の一は刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人をして負担させることとする。

主たる訴因について。

本件公訴事実の主たる訴因は、被告人は、判示のように虚偽の申告書を富山市役所職員に提出して同市長に虚偽の申告をし、情を知らない右職員をして、即時権利義務に関する公正証書の原本たる収税を目的とした同所備え付けの軽自動車税課税台帳に、その旨不実の記載をさせたものであるというのである。

そこで、本件軽自動車税課税台帳が刑法一五七条一項の権利義務に関する公正証書の原本に当るかどうかについて考えてみるに、地方税法(四四二条以下)は、道路運送車両法の車両の区別に従い、第一種原動機付自転車(総排気量五〇cc以下)、第二種原動機付自転車(総排気量一二五cc以下)を軽自動車等とともに市町村税の対象とし、これら車両の主たる定置場所在の市町村において、その所有者に軽自動車税を課することとし、その標準税率を定め、かつ同税の納税義務者は、当該市町村の条例の定めるところにより、同条例の定める事項を申告しなければならない旨規定し、右地方税法の規定を受けた富山市市税賦課徴収条例は、軽自動車税の納税義務が発生した者は、その発生の日から一五日以内に原動機付自転車等の種別、車名、形状、性質、用途、主たる定置場の位置、納税義務発生の日等を記載した申告書を同市長に提出しなければならない旨規定している。

ところで、富山市財務部市民税課長宮本秀雄の検察官に対する供述調書謄本によると、富山市においては、納税義務者から軽自動車税発生申告書が提出された場合同市役所職員において、右申告書を書面審査のうえ、前記条例の規定と異り、当該原動機付自転車の現物を呈示させることなく、右申告書の記載が形式的要件を具備する限りこれを受理し、同市役所備え付けの軽自動車税課税台帳に総排気量その他の所要事項を右申告書より転記して同台帳を作成し、同台帳に基き同市の徴税事務が処理されていた(なお、右申告書とともに提出された標識交付申請書に基き申告書記載の車種の標識(番号標)が申告者に交付されていた)こと並びに右軽自動車税課税台帳の作成に関しては、地方税法や前記条例に直接の根拠規定はなく、同市の行政事務処理の一般的権限に基き作成されていたことが認められる。

以上関係法令及び事実関係等より考察すると、本件において被告人らのした虚偽申告等の行為は、結局不正に第一種原動機付自転車の標識を取得し、道路交通法上自動二輪車免許を要する第二種原動機付自転車の無免許運転を助長するもので、まことに非難すべきものであるが、しかし、本件軽自動車税課税台帳は納税義務者の認識、義務の内容の明確化等同市の前記徴税の事務を処理するについて基礎となる公文書であるに止まり、それ以上にいわゆる権利義務の得喪変更等の証明を目的としたり、権利義務に関する事実を証明する効力を有するものとは認め難いので、右課税台帳は、刑法一五七条一項にいう権利義務に関する公正証書の原本に該当しないものといわねばならない。従つて、本件の主たる訴因はこれを認めることはできない。

よつて、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例